■僕の勝手なBest10【エリック・カルメン編】・・・・プロフィール(歴史)はこちら!
🎸第1位:『Never Gonna Fall in Love Again』──「もう恋はしない」という静かな決意
■ エリック・カルメン編、いよいよ―第1位!少しだけ話を聞いてください。
ついに、エリック・カルメン編のラストの曲をご紹介する時がきました。
栄えある第1位に選んだのは──
**「恋にノータッチ(Never Gonna Fall in Love Again)」**です。
正直に言えば、第2位に挙げた「Let’s Pretend」も同じくらい大好きで、僕の中では常に双璧を成す存在でした。しかし、この『恋にノータッチ』との出会いがあまりにもドラマチックだったため、どうしてもこの曲に気持ちが傾いてしまうのです。
と、最初にハードルを上げてしまいましたが……。
実際、この曲を初めて耳にしてから、その正体がわかるまでに、1〜2年はかかりました。
■ 偶然の出会いと、忘れられない記憶
リリースされたのは1975年。僕が高校2年生の頃ですが、当時この曲を知っていたわけではありません。
はっきりとは覚えていませんが、大学に入学して、東京にいた時のことです。
初めて聴いたのは新宿の地下街か、あるいは地下通路のどこかだったと思います。

通りすがりに耳に入ったメロディが、あまりに自分の好みにぴったりで、その瞬間から忘れられない一曲になりました。まるで、ふきのとうの『白い冬』との出会いのように──。
英語の曲だったため、歌詞の意味まではわからず、メロディだけを必死に覚えようとしました。
ラジオやテレビでも探してみましたが、手がかりはまったくつかめず。
知人や同級生にメロディを口ずさんでみても、「何それ?」という反応ばかり。自分の音程が合っていたのかもわからず、まるで霧の中をさまようような日々でした。
■ 奇跡の再会と“レコード店での確信”
そんなある日、大学で同じ高校出身のK君がこう言ったのです。
「Ken! もしかして、この曲じゃないか?」
そう言って差し出されたのは、エリック・カルメンの『Never Gonna Fall in Love Again』というメモのようなもの。僕はすぐに近くのレコード店に駆け込み、試聴させてもらいました。

──まさに、これだ!!
言葉では言い表せないほどの嬉しさが込み上げ、迷うことなくLPレコードを購入しました。
それからというもの、繰り返し、何度も、何度も聴き倒しました。
■ “運命的”だったカルメンとの再会
しかもその時、驚くべきことがもうひとつありました。
このエリック・カルメンが、僕が高校時代に夢中になっていたラズベリーズのボーカリストだったのです。
思えばこの出会いもまた、偶然ではなかったのかもしれません。
音楽との出会いというのは、不思議なものです。
人との出会いと同じように、どこか“ご縁”のようなものがある。

そんなことを思わせてくれた、忘れられない1曲でした。
音楽との出会いも、人との出会いと同じく──まさに「おかげ様」なのだと。
🎥まずはいつものように、Youtubeの公式動画をご覧ください。
🎬 公式動画クレジット
🎥 公式動画提供元:Provided to YouTube by Arista/Legacy
💿 楽曲:Never Gonna Fall in Love Again – Eric Carmen
© 1975 Arista Records LLC
📘 2行解説
エリック・カルメンが1975年に発表した哀愁のバラード。ラフマニノフの旋律を下敷きにしながらも、独自の叙情性で多くのリスナーを魅了した名曲です。
リリースと収録情報
1975年11月、アリスタ・レコードからリリースされたエリック・カルメンのソロ・デビューアルバム『Eric Carmen』に収められた本作。
「Never Gonna Fall in Love Again」は、その中でも特に静かな存在感を放つバラードです。

ビルボード・ホット100では最高11位、アダルト・コンテンポラリー・チャートでは堂々の1位を記録。
ラズベリーズでのパワーポップ路線から一転、バラード作家としての地位を確立する契機となった作品でした。
構成と感情の流れ
関係の終わりを「静かに受け入れる」冒頭
No use pretending things can still be right
(もうすべてが元通りになるなんて、思い込んでも無駄だ)
There’s really nothing more to say
(言うべきことなんて、もう何もない)
この楽曲は、感情的な葛藤を描くことなく、冷静かつ静謐な別れの宣言から始まります。
「修復不可能」という現実を淡々と受け入れ、すでに感情を越えてしまったような“終わりの肯定”が印象的です。 ここで描かれるのは、葛藤ではなく、「決意したあとの静けさ」です。
サビ:トラウマによる拒絶の表明
Never gonna fall in love again
(もう二度と恋には落ちない)
I don’t wanna start with someone new
(誰か新しい人と始めたくない)
‘Cause I couldn’t bear to see it end
(また終わってしまうなんて、耐えられない)
タイトルそのものが何度も繰り返されるサビでは、恋愛そのものに対する“否定”が語られます。
ただしそれは、冷たい拒絶ではなく、「傷つくことへの恐れ」によるもの。

Just like me and you
(あのときの僕と君のように)
過去の関係がまだ心に残っているからこそ、次へ進むことができない。
この一節が、感情の根にある痛みの深さを物語っています。
二番:思い出と喪失の時間軸
At first we thought that love was here to stay
(最初の頃は、愛がずっと続くと思っていた)
The summer made it seem so right
(夏の陽射しが、そう信じさせてくれた)
“夏”という季節が、愛の最盛期として描かれた後、
But like the sun we watched it fade away
(でも太陽のように、それは沈んでいった)
From morning into lonely night
(朝から、孤独な夜へと)
と続く比喩表現によって、関係の変遷が自然の時間経過に重ねられます。
ここでは、“終わる”ことが決して劇的ではなく、避けようのない流れとして描かれている点が特徴的です。

メロディと演奏の設計
ピアノを中心としたシンプルな音像
ピアノは常に中心に据えられ、派手さは皆無。
深夜にひとりでそっと弾くようなニュアンスを帯びており、リスナーの“心の中の声”に自然と近づきます。

ベースやドラムもあくまで補助的。
全体の演奏が主張を避け、ボーカルとピアノの“語り”を邪魔しないよう丁寧に整えられています。
歌声と感情表現の重なり
エリック・カルメンの声はやわらかく、ややかすれた質感を持っています。
この楽曲では決して声を張らず、淡々と、しかし確信をもって言葉を届けます。
I don’t wanna start with someone new
(誰か新しい人と始めたくない)

この一節では、声を抑え気味にして自らに言い聞かせるようなトーンを用いており、その抑制がかえって強い説得力を持ちます。
言葉以上に語る音の重なり
サビではストリングス(弦楽器)の音が重なり、ピアノの単音に対して情緒を豊かに支えます。
Never gonna fall in love again
(もう恋には落ちない)
この繰り返しの裏で響く音は、言葉にならない感情の残響として機能し、リスナーに強い印象を残します。
『All by Myself』との対比から見えるもの
同じ「孤独」でも表現は対極
エリック・カルメンの代表曲として並び称される『All by Myself』と『Never Gonna Fall in Love Again』。
いずれも“孤独”を主題としていますが、その表現手法は大きく異なります。
『All by Myself』
- 劇的な構成
- フルオーケストラによる壮大なアレンジ
- 「ひとりぼっち」の寂しさを高らかに歌い上げる構成

『Never Gonna Fall in Love Again』
- 極めて内向的なトーン
- 情感を抑え、言葉を静かに置いていく手法
- 「誰にも心を開かない」と、自らに言い聞かせるような説得力

つまり、同じ題材を扱っていながら、『All by Myself』が感情を外へ放つ作品であるのに対して、『Never Gonna Fall in Love Again』は内側へ沈み込んでいく作品なのです。
時代背景とメッセージの非明示性
「語らないこと」で届くもの
1975年当時、アメリカ社会はベトナム戦争の終結を経て、ようやく日常へと帰ろうとする時代の中にありました。大きな声で何かを訴えるよりも、日常の中でこぼれるような感情や、小さな痛みを静かに描く音楽が求められつつあった時期です。
この曲には、社会へのメッセージ性も、未来への希望も、激しい主張もありません。
ただ「もう前には進まない」と語るような、個人の決意だけが残されている──だからこそ、現実的で等身大の“愛の記憶”として聴こえてきます。

聴き手に委ねられた感情の風景
演出を削ぎ落とした説得力
『Never Gonna Fall in Love Again』は、アレンジや演奏による感情の押し付けを極力避けた楽曲です。
そのかわり、言葉一つひとつの重み、歌声のトーン、繰り返されるフレーズがすべて、淡く、静かに、しかし確かに心に残ります。
Never gonna fall in love again
(もう二度と恋には落ちない)
この言葉が、決意のようでいて、実は“自分を納得させるための言い聞かせ”として響く瞬間に、リスナーは自身の過去と重ねてしまうのです。

聴き終えた後に残る静かな記憶
この曲には、終わった瞬間に何かが心に残るような「余韻」があります。
派手なエンディングはありませんが、その静けさこそが、聴く人の内面にふと何かを呼び起こすのです。
思い返しても言葉にならないような関係。
終わったあとに誰にも語らなかった感情。
この曲は、それらに静かに寄り添うというより、「触れないまま、そっと残す」音楽です。

終わりに:沈黙のなかにある真実
『Never Gonna Fall in Love Again』が、時を超えて今も人々に聴かれ続けている理由は、誰かの声に頼らなくても、誰の感想にも影響されず、ひとりで向き合える“心の場所”を用意してくれているからではないでしょうか。

この楽曲が語っているのは、「恋をしないこと」ではなく、“もう誰にも話すことのない感情を、自分の中でそっと置いておくこと”。
そして、その静かな決意が、私たちにとってもまたかけがえのない記憶として響くのです。
『Never Gonna Fall in Love Again』―エリック・カルメン:意訳!
もう大丈夫だと自分に言い聞かせて
別れの言葉も残さず 扉を閉める
新しい恋なんて もう始めたくない
また終わるのが怖いから
あの夏の陽射しに永遠を重ねて
僕らはきっと続くと思っていた
けれど太陽は沈み
夜の静けさが すべてを飲み込んだ
過去を思い出すたびに胸が痛む
笑っていた日々の記憶が
今はただ冷たい風のように過ぎていく
だからもう 二度と恋はしない
──君と僕のような結末になるのなら
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